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第4章 別  れ

 第1話 * 最後のバースデー

 99年の年が明けた。年末以降、天候が悪く寒い日々になった。診療再開を待って、トミーをふたり掛りで動物病院へ連れて行った。その前に診てもらったのはいつだったのか覚えていないが、その間に床ずれはひどく悪化してしまった。診察を受けている間、診察台の上に横たえたトミーを私は涙なしで見ることができなかった。それはそれは見るも耐え難いほどの悪化だった。そこに大きな穴がすっぽり開いたように、その奥の骨にまで達していた。

 それから数日たって、1月9日はトミーの14才の誕生日だった。実家で下の娘も来て、夜、お祝いをした。トミーを四角いたらい(セメントを混ぜる時に使う舟様の物)に乗せて室内へ運んだ。

 いつも誕生日だけは特別にステーキ肉のごちそうだったが、その日は小さなバースデーケーキも買って来た。ろうそくに火を灯してお祝いをした。普段は食べさせないケーキのスポンジもクリームも食べさせてやった。もちろん大好きな肉も食べて、少しだけボール遊びをした。
 トミーの視力はかなり無くなっていたようだったが、目の前で人間同士で黄色いテニスボールを投げ合うのに首を動かして反応した。いつもボールには目が無かった彼が、ひととき目の色を変えてボールの動きを追った。元気な時と同じように。しかし、弱っている身体に無理させないようにと思って、ほんの数分だけだった。ボール遊びをしたことを獣医さんに話したら、「心臓も弱っている状態なのに駄目ですよ。」と叱られてしまったけど。


 彼がほとんど目が見えなくなったのは亡くなる数日前からで、それまで尾っぽを持って前足で歩かせてオシッコに連れ出していたのが、見るからに怯えてしまってできなくなった。ふたりがかりで抱えるようにして庭に連れ出した。そうこうしているうちに血尿を出した。

 誕生日のあくる日からは食べ物ー肉でさえ受け付けなくなって、獣医さんの指示でスープを作って与えたのもほんの1〜2日。もう身動きもせずに玄関の土間で横たわっているだけだった。13日に先生に往診していただき、14日の午前にも点滴に来ていただいたのに、その甲斐もなくその夜、1月14日、私たちは彼とのお別れの瞬間を迎えることになった。
 

第2話 * 最後に・・・アリガトウ

 トミーが息を引き取った後に見たものを、「あれは絶対、トミーが最後にアリガトウと答えた。」と夫は言う。三回、口がパクパクと動いたと言う。夜の9時45分頃だった。

 そのほんの2時間あまり前、生駒訓練所へはいよいよであることを一度電話して報告した。二度目、亡くなったと連絡した時、娘をわざわざ帰されるには及ばないと言ったのだが、娘に最後のけじめをつけさせたいとの社長のお考えで娘はその夜のうちに帰ってきた。社長さんがタクシーを頼んでくださった。生駒から松江まで。途中、事情を聞いた運転手さんも、高速を精一杯飛ばしてくださったそうだ。
 自宅に帰り、缶ビールを開けてトミーとの別れをしていた私たちに「今、蒜山のパーキングまで帰った。」と娘が電話してきたのには驚かされてしまった。

 明くる朝、娘は訓練所の慣例に従って、彼を送る準備をした。遺体をくるむ「さらし」が必要だと言うので、知人の呉服屋さんに電話したところ、驚いたことにそのお宅では数年来介護されていたおとうさまがお亡くなりになるという、こちら以上の大きな場面に遭遇されていた。
 にもかかわらず、「さらしを取りに来てください。」と言っていただいた。余談にはなるが、私たちはトミーに「最後の仕事だよ、おじいさんをちゃんと案内してあげなさい。」と言って手を合わせた。

 それから、犬を通して知り合った方々何人かにトミーの死を伝えたら、すぐに最後のお別れに来ていただいたり、花束他の贈り物をいただいたりした。
 その中には愛犬連れで来た方もあって、なかでも、Yさん宅のシェリーちゃんというGリトリーバーの女の子は、トミーの遺体の側に近づき、とても悲しそうな表情で鼻先をトミーの顔に寄せてくれた。彼女の幼い時からの友達・トミーおじさんとの別れを、すべて察したふうな表情だったことは、写真にも残っている。
 


                 お別れのご挨拶・シェリーちゃん  
   さくら&シェリー&メイちゃん                        1999,1,15
第3話 * 大山メモリアルパーク

 亡くなって1日置いた土曜日、仕事を休業にしてトミーを荼毘に付すために隣の鳥取県にある大山メモリアルパークへ行った。我が家の4人の他に、愛犬仲間のYさんが2頭の愛犬と1頭の友人の愛犬を連れて一緒に行ってくれるそうで、また、Oさんの奥様も付き合ってくださって、車3台で向かった。
 お棺の中をトミーに使っていたリードやボール・食べ物・花などで埋めて、丁寧な儀式を施していただいて、トミーは炉へ入れられることになった。何が辛いと言ったら、一番その瞬間だったかもしれない。

 身体の大きいトミーが焼き終えるまでには2〜3時間は掛かるそうなので、待ち時間を少し離れた岸本町の方へ足を伸ばし、そこで連れて行った犬を遊ばせたり、昼食を取ったりして過ごした。

 トミーの身体の病んでいた部分が燃え尽きるのに時間が掛かったが、購入した骨つぼに丁寧に拾ってやった。係りの方が「黒いところは病気に冒されていた部分ですよ。」と教えてくださった。


 待ち時間を過ごしたシーズンオフのレジャー施設。周囲には膝丈くらいの積雪があって、トミーを送りに来てくれた3頭のワンちゃん達は楽しそうに遊んでいたっけ。3頭とも牝犬だったから、きっとトミーのヤツの魂もひとしきり追い回したりして遊んで、それから、ゆっくり空に昇って行ったのかもしれない。

 最近、夫の夢の中に時々トミーが現れるそうだが、不思議に、いつだって、彼は自由に楽しそうに走り回っているとか。

おわり
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